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Leiの花咲くころ・後

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あらすじ: 南国のビーチで再会した2人。

※スタートレック・ヴォイジャーと、それに登場するキャラクターに関する著作権はパラマウント社に属します。この作品はそれを侵害しようとするものではありません。転載をご希望の場合はご相談下さい。

(前編の粗筋:ヴォイジャーが地球に帰還して初めての夏。チャコティは部下の少尉たちに誘われて南国のビーチに来ていた。ニーリックスのホロプログラムを彷彿とさせるそのビーチは、プライベートの充実感を失った彼にとって、かえって心痛いものだった。一方キャスリンは、隠しきれない未練を清算しようと一人旅に出たが徒労に終わり、いつの間にか思い出をたどる旅となっていた。チャコティと一緒に旅行に来た少尉たちは、隣のコテージにいる女性を、チャコティの元を去ったセブンオブナインではないかと思ったが…)

 名前を呼ばれて、キャスリンは顔を上げた。昨日から賑やかな声をあげていた若者たち。しかし、そこにいたのは彼らだけではなかった。

「…チャコティ?」

胸がすく、とはこのことだ。この声で名を呼ばれることを、夢にまで見た。

「あなた…どうしてここに」

言葉が出てこない。

 再び固まってしまった上官の後ろに来て、プロイセンはそっと彼に囁いた。

「後で紹介してくださいね、中佐」

そして、ぼけっとする2人の幼馴染をコテージの中へ引っ張って行った。

 彼らがコテージの戸を閉める音を聞いて、チャコティはやっと我に返った。

「夏の…休暇だよ」

当り前のことを言ったと、チャコティは自分の言葉にふきだした。つられて見せたキャスリンの笑顔に、今度は心からの笑みが顔に浮かぶ。

 「艦隊の報告書を提出しに行った時以来だから…半年ぶりかしら」

「そう…ですね」

8ヶ月ぶりに右側に感じる安心感。ビーチを歩くチャコティと波の間に挟まれて、さっきまでの重い気持ちが嘘のように晴れていく…ほとんど。でも、2人の間には微妙な距離がある。

「元気だった?」

「ええ、まぁ。新しい船は作戦室と会議室の位置がヴォイジャーと逆でして。もう3度も間違えて笑われましたよ」

「習慣は恐ろしいわね」

「本当に。あなたは?」

「そのヴォイジャーがなかなか返ってこないの。トランスワープハブを抜ける前に戻さないとお偉方がうるさいから。でもほっとくと就航時に戻っちゃいそうだし、時々ドッグに顔を出していろいろ言わないと。ちょっと改造しすぎたかしらね」

「そうですね…」

少しぎくしゃくする会話。分かっている。普通なら、一緒に暮らしているであろう彼女のことを聞かなければならない。あのコテージの中にいるであろうもう一人。でも聞けない、聞きたくない…。わずかに流れる沈黙を、チャコティの咳ばらいが埋める。

「あの、ご家族はお元気ですか?」

「ええ、ありがとう。妹が母の側にいてくれているわ。でも毎日通信しないと母がうるさいのよ」

「1人でここに?」

「そう。もう世間の喧騒にうんざりしちゃって…」

あなたは?と聞かなければいけない。ここに誰と来たのか、あの3人以外の誰と。

俯いた途端、ふっとチャコティの気配が横から消えた。振り向くと、立ち止まって真面目な顔で自分を見つめる彼がいた。

 「キャスリン」

思い切って、以前のように名前で呼んでみる。もう後悔はしたくない。少し風が吹いて、キャスリンの顔に髪をかける。それを耳に掛ける手には、あの夜と同じピンクのレイがある。あの時まで、心を戻したい。

「私は…」

「セブンは元気?」

何かを言わせまいとするかのように、キャスリンが言葉をかぶせた。

「おそらく」

「おそらく?」

「もう…セブンの心は他の男のものだ」

「まさか」

「本当です。蜜月は2か月もしないうちに終わった」

「そう。…知らなかったわ、ごめんなさい」

その顔に浮かぶのは、何だろう。動揺?驚き?無関心?

「いいんです。あれは…ちょっと」

「じゃ、ここには?」

4人で。あの3人は新しい船の部下です」

見つめられて、顔を背けたいような、このまま見つめあっていたいような妙な気分になる。

 どうすればいいのだろう。ここで何と言えばいい?もうこれ以上その漆黒の瞳で見つめられたら、私は…。

「ハリーが中尉になったって、先月連絡してきたわ」

視線と話題を逸らす。

「キャスリン」

「思えばかわいそうだったわね、あんなに優秀で…」

「キャスリン」

腕を掴まれる。肩こそ覆っているものの、露出した肌の上に、直接彼が手を触れる。

「こっちを…向いて」

どうしようか迷った。でも、背負わなければならない重責は、今一時忘れることができるのではないかしら。

 以前のキャスリンなら、こんな時に腕をふりほどいて行ってしまったかもしれない。あの夜は特別だったのだ。しかし、今キャスリンは言われるがままに顔を上げた。ブルーの瞳が、こんなに近くにある。

 あの夜と変わらない滑らかな感触に、チャコティは覚悟を決めた。自分の心は、もう何事にも誤魔化されない、もう逃げない。

「私は、ずっと」

「チャコティ、待って」

キャスリンが顔を背ける。

「逃げないで。ヴォイジャーとクルーはもう帰ってきた。あなたは責任を果たしたんだ」

「…どうなの?」

キャスリンが珍しく歯切れ悪く言った言葉が、よく聞き取れなかった。

「え?」

「あなたは、どうなの?自分のことは棚に上げて」

チャコティは面食らった。キャスリンの言ったことは確かにその通りなのだが、彼女の頬に、一筋の涙が伝ったからだ。キャスリンは再びチャコティのほうへ顔をあげると、腕をふりほどいた。

「覚えている?あの『第2の地球』であなたが言った伝説」

「もちろん」

「あの夜から、あの夜からずっとあの伝説は私を引き止めたのよ。マークが結婚したと知った時はショックだったけど、少しほっとしたわ。それまでまるで2股をかけているような罪悪感があったから。サリバンと一緒にいるところを見られた時だって、あなたにはもっと違うこと言って欲しかった。クアラを発つ時に『心残りは少しもない』って言ったのも、ジャフェンよりあなたのほうが…」

「でもあなたは」

「セブンとあなたが付き合ってるって聞いて、ショックだったわ。でもあなたたちやクルーの幸せを先に考えて、それだけを考えて地球に戻ってきたの。でも、でも、帰ってきたら私は独りになってしまって…」

キャスリンの頬を、また涙が一筋流れる。

「どうしてあのまま待っていてくれなかったの?私の気持ちは分かっていたでしょう?」

 違う、違う。こんなことを言いたいんじゃない。これでは台無しではないか。彼の顔を見れば、彼の気持は分かる。ずっと分かっていて、自分がそれを曖昧にしてきたのに。自分こそ自らを棚に上げて。

「キャスリン」

「あなたがっ…」

他に言うことなどなかった。チャコティがようやく余裕を見つけて話しだす。

「確かに、一度はあなたへの気持に別の意味で整理をつけようとした。俺は逃げた。でも、俺も1人になって何がいけなかったのか分かった」

「なん…なの?」

「勇気がなかったんだ。『友情』という言葉を借りて誤魔化してきた。あれはあなたに向けた言葉じゃなく、自分に言い聞かせてきたんだ。それが限界になると、手近なところに逃げた。あなたを傷つけると知っていながら」

「チャコティ…」

そんな、傷つけてきたのは自分のほうなのに。

「私たちはずっと、同じ方向を見てきた。地球には近道をしたかもしれないが、私たちは遠回りしたんだ。そろそろ、向かい合ってみないか?」

すっと右手を出して、チャコティは返事を待った。もう最後のチャンスかもしれない。ここで拒まれたら、もうこうしてキャスリンと見つめあうことはできないかもしれない。

 「さぁっ…クライマックスよ」

「リジー」

コテージの窓枠に張り付いているプロイセンを、幼馴染がたしなめる。

「だって、この先の展開で決まるのよ!」

「何が?」

「後でジェインウェイ大佐に紹介してもらえるかどうか」

「はぁ?」

「ひでー。チャコティ中佐のファンとは思えんな」

「中佐も素敵だけど、大佐には是非お会いしたいと思っていたの。アカデミーでパスファインダー計画の通信を聞いた時は感動したわ」

「ほんっと、ミーハーなやつ」

「もういいからほらっ」

クーラーが恋人の特権で、彼女を抱えてキッチンへ運ぶ。

「あー!いいところなのに!」

 キャスリンはもう涙を止めることができなかった。半年だけでもこんなに辛くて、これから一生その気持ちを心の隅に抱えて生きていかなければならないと思うと、途方に暮れた思いが、こんな風に救われるなんて。

「キャスリン?」

涙の意味を図りかねているのか、チャコティの不安そうな顔が滲んだ視界の真ん中に見える。

 キャスリンに差し出した手は、飛び込んできた彼女の背中にまわされた。キャスリンの手に持ったままになっていたピンクのレイが、そのまま手の上に降ってきた。

FIN.

【あとがき】スパチャンでVOYのベルト放送が終わった、ということで書き始めました。せっかくなので、一回やってみたかった前後篇を。でも、前後合わせても、これまで一気に載せたものより短いです…。ま、あんまり長いのを一気にWordからコピペすると不具合が起きちゃいますので、このくらいのもいいですね。最後のほうはなんだか昔の恋愛バラエティみたいになってますが(笑)。

 初めて補完というか、最終回がらみに手を出しました。今回は、本篇を全部込ってことで。そのうち、最終回を完無視したのも書きたいですね。ジェインウェイ提督が来なくても、艦長ならもっと早く帰れる、と思ったりして。

 今回書いて、これまでのFICの反省点を1つ。艦長が暗すぎます。Melty-Kissはまあいいとして、あとはもう…。でもそうじゃないと、話進みませんよね?とか言いながら、悩む・引き籠る・泣くというネガティブな艦長ばかりで、自分でちょっと驚きます。別に艦長のこと、そういう人だとは思っていないんですが…。次はポジティブな艦長を書くぞ!(^O^)

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