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視線の先

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あらずじ:ベラナの気持ち。

 ※スタートレック・ヴォイジャーと、それに登場するキャラクターに関する著作権はパラマウント社に属します。この作品はそれを侵害しようとするものではありません。ご感想など頂けます場合には、bon-voyage0306@nifmail.jpまでお願いします。転載をご希望の場合も同メールアドレスまでご相談下さい。

 

 自分に自信がないから。ただそれだけのことで、恋愛に臆病な自分にちょっとだけ苛つく。

 自信がないのは「女」としての自分だ。それ以外なら、大抵は大丈夫。エンジニアの腕なら誰にも負けないし、自分の意見もちゃんと持っているつもり。一度は投げだした艦隊士官としての心構えだって、この非常事態のお陰で少しずつ取り戻してきた。

 でも…でも。「女」となると話は別だ。小さい頃から、男の子には決まってからかわれた。拳でそれを抑えつけてきたけど、私だって嫌だと思わなかったわけじゃない。高校やアカデミーで付き合った男もいたけど、イマイチ真剣に私のこと考えてくれてない感じがした。物珍しさや、怖いもの見たさって友達にもらしたのを聞いたこともある。

日常では自分さえ忘れているこの想いを、あのムカつくエイリアンに見せつけられてしまった。ジェインウェイ艦長は「ある意味これでよかったのかも」と言っていたし、あの時は私もそうですねと答えた。なんだかちょっとさみしそうに窓の外を見ていた彼女は、何を思っていたのだろう。あのひとは、何を見たのだろうか。

 たまのブリッジ勤務は、嬉しいのと同時に、最近は少しだけ居づらい。ふとした時、彼と同じ空間にいることを変に意識してしまう。横眼で覗くと、自分の席で仕事に追われる彼の姿が目に入る。なんだか調子狂うな。あの熱っぽい幻想が、彼に知られてしまったら…。考えるだけで、顔から火が出そうだ。

 ほんの1年前まで、彼がボスだった。いつも隣にいた命の恩人を、尊敬していたし慕っていた。仲間として。それだけだと思っていた。…思おうとしていた。

 「ベラナ、ベラナ!」

呼ばれて思わず飛び上がった。ブリッジの勤務でボーっとするなんて初めてだ。

「どうしたんだ?」

同じ視線の高さにいるパイロットが、怪訝な顔をしている。

「な…なに?」

声が上ずっていないか、震えていないか。

「別に、ただの雑談だったんだけど、ボーっとしてたから」

「悪かったわね。ワープコアの調整で気になることがあったから考えてたのよ。誰かさんと違って仕事は山ほどあるんだから」

言ってから、しまったと思った。

「なんだよそれ」

案の定、パリスは喧嘩を買ってしまった。売る必要などなかった喧嘩を。

「俺が仕事してないみたいに言うなよな。1日中ここに張り付いて船の進路見張ってるのは誰だと…」

「そこまでだ」

今度もまた、胸がすくような気分になる。そもそも、ボーっとしていた原因。

「ベラナ、何かあるのか?」

「何にもないわ!」

彼の問いに、そう答えるしかなかった。ブリッジの真ん中で、そんなこと聞かないでよね。まともに答えられるわけないじゃない。

「ならいいが。もうこの件はチャラだ。誰にでも少しくらいボーっとすることはある。そうだろ?トム」

「そうだけど…」

「よし。ところでベラナ。明日もブリッジ勤務を頼めるか?」

「明日も?」

「…不満か?」

今度は彼から疑問の視線を向けられる。

「別に…いいわよ。機関室の方はケアリーに指示しておけば何とかなるから」

「そうか、助かるよ」

またなんで?ケアリーをこっちに寄越せばいいのに。でも、嬉しい気持ちが心の奥から湧き上がってくるのを無視もできない。彼は、私を必要としてくれている。少なくとも、エンジニアとしては…だけど。

 今夜は珍しく残業なしに部屋へ帰れたのに、眠れない。ベッドで背中が痛くなるくらい何度も寝返りを打ちながら考える。彼は、何を見たのだろう。艦長がブリッジを出た時には、もうターボリフトの中で立ち尽くしていたと聞いた。艦長のように何かを考えていたような風には見えなかった。そもそも、彼に「心の奥に潜めていたこと」なんてあるんだろうか。あのお呪い…じゃなかった、スピリットガイドとやらで、いつも自分の心と向き合っていたんじゃないんだろうか。でもそれなら、彼はどうして幻想に捕われてしまったんだろう。

 分かっていても抗えなかった…。それほど彼を惹き付けるもの。それはなんだろう。地球?故郷の星?亡くなった家族?それとも…「誰か」?

「ああっ!もうっ!」

思わず起き上がる。バカ、みんなが私みたいに色恋に走るわけないじゃない。今日はワインでもひっかけないと、眠れそうにないわね。

 またしてもかすかに居心地の悪さを感じていたブリッジ勤務の途中で突然、それが分かってしまった。彼が見たもの。あるいは、その幻想など吹き飛んでしまうほどの「想い」。

ブリッジの真ん中で、談笑するクルーの中心にいる彼と艦長は、一見ただの友人同士に見える。でも、艦長がよそを向いたとき、彼が彼女を見る目は…以前と違う。密やかで、熱っぽくて、それでいて穏やかで…。ああもう、頭痛くなってきた。

相手が艦長じゃ、絶対に無理。勝てない。階級とか科学の知識や発想力とか、そんなのだってまともに勝負したらかなりの確率で負ける。ましてや「女」としての彼女…外見、気品、優しさ、情熱…。私にあるものを全部持ってる上で、私に足りないものも持ってる。あんなの、ずるいって言いたくなるくらい。艦長って、確か地球に婚約者がいたんじゃなかった?まぁ、そんなの関係ないわよね。私だって、彼が艦長を想ってるって分かっても、そう簡単に自分の想いを断ち切れるわけじゃないんだもの。

 益々、ここにいるのが嫌になった。あんな視線を見せつけられたんじゃ、もうどうしようもない。自分の方を向いてくれるかもと1%の期待を抱いていた自分も嫌になった。

「ベラナ」

今度は、呼ばれても飛び上がらずに済んだ。なんでいつも、考え事をしてる時に限って呼ばれるのだろう。

「なに?」

振り返ると、彼の視線が自分にあった。そこには親しみこそあれ、情熱や密やかさ、まして色気の類など微塵もない。

「連日で悪いが、明日もそこでの勤務を頼めるか?」

「またなの?」

「そうだ」

「なんで?」

「今週そのセクションを担当してるカルハン少尉が病欠なんだ。全快まではあと1日欲しいらしい」

「だめよ」

きっぱりと言い切ってみた。ふっと顔を見合わせる彼と艦長。その視線はだいぶ押さえているけど、私に向けられたものとは違う。艦長は、気付かないんだろうか。

「どうしてなの?」

艦長に聞かれる方が、幾分楽だ。

「これ以上機関室を空けたら、ケアリーに乗っ取られてしまいます」

「またそんな…」

「それは、冗談ですけど」

ほっとしたような彼女の顔。女の私でもきれいだと思う。

「機関室での仕事も溜ってるんです。やっておきたい調整やチェックもありますし…」

「ウズウズするんだろ?」

横やりを出すように、またパイロットが口を挟む。

「何ですって?」

「機関室での仕事がしたくてさ。分かるよ。俺だって医療室勤務の時はウズウズするもんな。やっぱここで座ってないと落ち着かないっていうか、しっくり来ないもんなんだ」

「まぁ、そんなところよ」

昨日の反省も含めて、今日は素直にパリスの言うことが正しいと認める。

「意外な共通点だな」

彼の声がしても、顔を見られない。

「…ケアリーを寄越すわ。それでいいですよね?」

彼が唯一逆らえない人事権を持っている人に、同意を求める。懇願する気持ちを抑えて。

「構わないわ」

鶴の一声で、明日の気鬱からは解放された。暫くは、機関室での仕事に没頭しよう。叶わない想いは、これまでだってそうやって昇華させてきた。きっと、すぐに違った目で彼を見られるようになる。よき上司として、よき仲間として。

 「今日はどうしたんだ?」

食堂でレオラルートをつっついていたら、いきなりそう声を掛けられた。思わず、フォークを取り落としそうになる。

「なにが?」

「ブリッジ勤務だよ。どうして断ったんだ?」

当り前のように向かいに座った彼は、少しだけ心配そうな顔をしている。

「だから言ったじゃない。機関室でやらなきゃいけないことが…」

「ほんとに、それだけか?」

「…そうよ」

昨日といい今日といい、彼の問いを誤魔化してばかりだ。

「そうか。残念だな」

「残念?」

「ああ。ブリッジで雑談してて、時々マキの思い出話もしたくなる。俺の話が通じるのは、上級士官でお前だけだからな」

「雑談のために、ブリッジにいろって言うの?」

フォークに突き立てたレオラルートを、彼の鼻先に向けると、ふっと笑顔が返ってくる。この笑顔も、ずるい。

「そうだな」

「思い出話なら、ここでもいいんじゃない?」

「ああ、構わんよ」

 不思議と、いつもの自分に戻れていた。チャコティの顔も、声も、笑顔も普通に見られる。よかった、こうなっちゃえばこの想いを抱えたままだって、ストレス溜めずに仕事ができそうだ。仕事で役に立つ、それだけが今私にできることだもの…。

Fin.

【あとがき】ベラナ視点で、これまでとはちょっと趣を変えてみました。え~っと「ボーサ人の攻撃」の後話ということで。幽人さんのレヴューを読んでいて、何となく書いた小作です。ので、友情出演トム・パリスです。副長の幻覚の内容をもっとはっきりさせようかと思ったんですけど、それは別の機会にします。ベラナがかわいそうっちゃかわいそうだけど、そのあと真っ先に幸せになった女性クルーだから、まぁチャラでしょう(笑)。J/Cって言うよりはCJってだけのような感じですね。

 絶対ベラナってこうだと思うという、勝手な思い込み満載です。艦長の場合は作品によって2タイプあって、今回のベラナみたいに「強い女ほど恋愛には自信なし」って場合と「いや、恋愛もがっつりいきます。だって今までモテてましたもん」ってタイプ(笑)。今のところ、Ficでは前者が多い気がしますが。でも、ベラナは前者だと思います。それは幼いころの家庭環境とかいろいろ思うところはあるんですけど。

 タイトルの「視線の先」は(…これ言っちゃうと面白くないのかな?まいいや)副長の視線の先に艦長がいるっていうのもあるんですけど、チャコティのわずかな変化にすぐ気付くほど、ベラナの視線の先には彼がいたってことで。

時間がないんじゃなかったのか?と思われるかもしれませんが、思わず徹夜を致しました。期せずして、一周年記念FICみたいになっちゃいましたけど、個人的にはきっかけを下さった幽人さんに…。あ、返品してくださっても結構です(笑)。

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