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純白のアンチテーゼ

Reting G  J/C

あらずじ:クリスマス・パーティでの出来事

※スタートレック・ヴォイジャーと、それに登場するキャラクターに関する著作権はパラマウント社に属します。この作品はそれを侵害しようとするものではありません。ご感想など頂けます場合には、bon-voyage0306@nifmail.jpまでお願いします。転載をご希望の場合も同メールアドレスまでご相談下さい。

 ヴォイジャーで毎年開かれるクリスマス・パーティは、年々その規模を大きくしていった。ムードメーカーを自任するニーリックスや、すっかりホロプログラマーとなったトム・パリスのお陰で、料理や飾りつけは特に大胆であった。時にはリゾートをテーマに、またある時には氷でできたホテルをテーマに(これは大不評であった)した。その年のテーマは「オーソドックス」。古典的な地球のクリスマスである。トムに言わせると「原点回帰」ということだったが、つまりはネタ切れということだろう。それでも、プログラムも料理もよくできていて、地球人を中心とするクルーたちは満足であった。それに今年は、わざわざ新しい服をレプリケートしなくていいのだ。

 ラフな部屋着同然の生成り。インド綿の感触と絹の繊細さを持ったこの布地は、キャスリンの気持を、まるでインディアナの実家に戻ったような気分にさせた。ニーリックスには悪いけれど、母の料理が無性に食べたくなる。妹の笑い声が懐かしい。今や、それらは感傷的なだけでなく、一種の心地よさを伴って思い出されるものとなっている。それに、父はいつも、キャスリンに真っ白ではなくこういう自然の色の服を着せたがった。科学の人であった父は同時に、自然に対する尊敬の念を忘れてはいなかった。

 広々としたログハウス、外は雪原を月が照らし、中は暖炉の火が暖かい。クリスマスを象徴する様々なものがあちらこちらに、しかしさりげなく飾られた部屋。ホロデッキに入ったキャスリンは、コトと音を立て古めかしい木の床が靴にあたる感触を感じながら、既に談笑しているクルーたちの間を抜けていった。何人かは「艦長」「メリークリスマス!」とキャスリンに声をかけ、キャスリンも笑顔でそれに応えた。

 例年のように、キャスリンをはじめ上級士官のテーブルは一番奥に用意されている。別にパーティが始まってしまえばそれは関係なくなるのだが、始めの挨拶はやはりキャスリンがしなければならない。それは、最も楽しい仕事の1つであった。

 テーブルに着くと、そこにはキャスリンにとって懐かしい家庭料理が並んでいた。チキンのポットロースト、シンプルなポテトパイ、そしてちゃんと切り株をかたどったクリスマスケーキ。微笑みをたたえていた顔が、更にぱっと笑顔になる。

「今年はトムとニーリックスに最大の賛辞を送りましょう。クリスマスとしては完璧よ」

キャスリンが掲げたグラスに、クルーが倣い、そのあとには拍手が起こった。

 パーティはこれまでで一番盛り上がり、やがて早朝勤務のクルーは部屋に引き揚げていった。騒がしい余韻がまだ部屋の中を漂っていたが、かすかに流れる「O Come All Ye Faithful」が聞こえるほどになっていた。チャコティは、程よく酔った気持ちよさと、騒いだ後の気だるさ、それにパーティが終わった後にいつも残る少しの寂しさを抱えて、もう帰るというベラナたちを見送った。そしてふと振り向いたとき、まばらになったといえるほど人の少なくなった部屋の奥にキャスリンを見つけた。何かを見つめているようだったが、それはクルーに阻まれて見えなかった。チャコティは、彼らの向こうに何があるのか知りたくなった。

 「マリア像?」

声の主が、いつも隣にいるその人だと分かって、キャスリンは振り向かずに答えた。

「ええ」

それは、50cmほどの小さな、しかし外の雪よりも白く輝くマリア像であった。丁度見る者と同じ背丈に飾られている。すべての子供たちを優しく見守る微笑みと眼差し。差し出された手には、この上ない慈悲と愛が込められている。よく見る形ではあったが、非常に美しくできていた。

「きれいだ」

素直にそれを口にした。

「そうね」

さらりと答えるキャスリンの声には、なんの気負いも飾りもない。本当に気の置けない人にだけ向けられる。

「いつもきれいだったわ…」

その一言は、チャコティにとって不思議だった。

「何か、思い出でも?」

「ええ。少しね」

キャスリンは少しだけ笑って、グラスを持っていない手でツンツンとマリア像を軽くつついた。

「私はこの女性のせいで、科学の道に進んだの」

「というと?」

「昔ね、私には信じるものが2つあったの。科学と宗教よ」

「それは、意外だな」

「でしょ?今の私からは想像できない」

そしてまた、ふふふと笑う。その横顔は、チャコティにとってマリアより美しかった。

「それが、この女性のせいで科学の人に?」

「まぁそれだけってわけじゃないけど。父は艦隊の人だったし、科学はもっと前から好きだったわ。でも、無条件に信じられる宗教も好きだった」

少年時代は部族の精霊やスピリットガイドに懐疑的だったチャコティには、そうやって2つのものを同時に信じられるキャスリンが、少しうらやましかった。

「あれは…10歳くらいの時かしら。私は悩むようになったの。それまで全く別世界だった2つが、だんだん自分の世界の中で混乱してきたの」

またしても出てきたよく分からない言葉に、チャコティのほうが少し混乱した。

「どういうことですか?」

「それまでは、全く別物として考えられてた。世界を知らなかったから。でも、だんだん周りが見え始めて、相反する科学と宗教のどちらを、自分の中心に置いていいか分からなくなってしまったんだと思うわ。もっとシンプルに言うなら、1つを選ぶ時が来たって感じかしらね」

「なるほど、大人への第一歩ってわけだ」

「大人っていうほどじゃなかったけど、言うところの思春期よ」

チャコティはそっとその頃のキャスリンを想像してみた。おそらく今よりももっと髪は金色に近く、目はまだ浅いブルー。そして弾けるほどいきいきとした、美しい少女。

「それで、宗教書の類を読み漁ったわ。何度目かに新約聖書を読んでいるときにね、ふと気づいたことがあったの」

「マリアのことで?」

「ええ」

「どの場面で?」

「イエスが死ぬ場面よ。十字架を背負い、町を引き回しにされ、丘の上で2人の盗人共に殺される」

その場面でマリアに注目するのは、チャコティにはない視点だった。

「彼女は何をしていたんだろうって思ってしまったの」

「イエスが死んだ時か」

「そう。自分の息子が、それも皆から神の子として崇められた自慢の息子が、罪もないのに殺されるのよ?普通、母親なら何をしてでも止めようとするんじゃないかしら」

「たしか、マリアはもう年だったと思うが」

「そうね。遅くにできた子だったから、もう相当の年だったでしょう。それでも、私には理解できなかった。教会の司教に聞いて困らせたわ」

今でも、キャスリンは分からないことがあると徹底的に調べようとする。その行動はいかにも彼女らしく、チャコティは微笑んだ。

「笑わないでよ、当時は真剣だったんだから」

「すみません」

「ただ泣いていただけのマリアに疑問を持ってから、私は科学に傾いていったの」

「で、今に至る?」

「思春期のほかの悩みを大幅に省略すればね」

今度は2人で顔を見合せて笑う。

「じゃあ、この女性に感謝しなければ。彼女が母親パワー満開でイエスの死を阻止しようとあがいていたら、あなたは艦隊に入らなかったかもしれない」

「それは、どうかしらね」

「今なら、理解できますか?」

「いいえ」

キャスリンは、きっぱりと言い切った。

「むしろ、今の方が彼女に対する反立は強いかもしれないわ。子供がいるわけじゃないけど、クルーに責任を持つ身になって…」

「分かりますよ」

「あら、そう?」

「私もマキの船を率いていたときがあったから…」

「そう、そうね…」

ほんの何年か前のことなのに、それはずっと昔のことのように思えてしまう。それほど、チャコティもキャスリンも変わった。

「私なら黙ってないわ。ただ泣いているなんてしない。みすみすクルーを目の前で殺されるなんてことしない。ちょっとでも傷つける者がいたら許さないわ」

その静かな言葉は、クルー全員への宣言のようでもあり、キャスリン自身への誓いのようであった。チャコティはその誓いに応えるように、小さな声で囁いた。

「あなたを傷つける者は、私が許さない」

え?と言うように一瞬驚いた顔でチャコティを見上げたキャスリンは、じっとマリア像を見つめるチャコティに倣い、マリア像に視線を戻した。そして、チャコティにそっともたれかかる。腕に触れる彼の手のぬくもりを感じながら、キャスリンは昔のあの感触を思い出していた。

 科学のほかに、信じられるものがあるわ、ここに。でも、それはもう科学と天秤にかけなくてもいい。どちらかを選ぶ必要なんかないのね。

Fin.

【あとがき】これは、7月の半ばの熱帯夜にクーラーも点けず、汗を垂らしながら書きました。聞いていたのはなぜか尾崎豊。全部がチグハグですが(笑)。「アンチテーゼ」という言葉、調べてみたんですけど実はあんまりよく分からなかった。とにかく反論とか、反立とか、そういう意味で使いたかったんです。それと、7月までに書いたFICの反省も込めて(『Leiの花咲く頃』あとがき参照)、ウジウジしてない艦長を目指しました。とりあえず、マリアをツンツンしながら「この人は息子が殺されるとき、何もせずにただ泣いていたのね」と言う艦長がスタートです。ミッションの大学に行っていたので、聖書は持っていたはずなのですが、どうも進級のゴタゴタに紛れて後輩にあげちゃった(バチあたり)らしく、手元には讃美歌集しかありません。ので、マリアに関する記述はうろ覚え。でも、小学生の時に、マンガの偉人伝で読んだ時のマリアはこうだったような気がするのです。

【追記】で、12月の今に至ります。もうちょっと長かった気もするんですが、どうやらその後未掲載のFicをまとめて直した時にザクザク削ったようです。今回よっぽど書き直してやろうかと思いましたが、なんだか余計に混乱をきたしそうなのでやめます。結局イブの朝に合わせてUPです。聖書に関するところは、その後気にしてもいませんでした。時間があったんだから調べとけばよかった…。そう言えば、「ピエタ」と今回と、数少ないFic2度もキリスト処刑時のマリアを取り上げていますねぇ。と、言っている今、「マンガ聖書物語〈新約篇〉」があった!たぶんテスト対策で読んだやつです。母マリアに関しては…記述が少なすぎました。

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