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成長

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あらずじ:トムの事

※スタートレック・ヴォイジャーと、それに登場するキャラクターに関する著作権はパラマウント社に属します。この作品はそれを侵害しようとするものではありません。ご感想など頂けます場合には、bon-voyage0306@nifmail.jpまでお願いします。転載をご希望の場合も同メールアドレスまでご相談下さい。

 大きくなったこと…。

心の中に浮かんだその一言に、内心自分の年を痛感させられたものだ。そんな年よりくさいことを、思わず口にしそうにさえなってしまっていた。まだ30代、そう思っていたが、昔の自分からすれば、もう30代、だった。もうそれも終わりかけているけれど。

 並んで歩くと、遥かに背の高い青年は、昔こちらを見上げた目を少し伏し目がちに下ろしてきた。彼のリアクションからすれば、昔一度だけ会ったことがあるのを覚えていないようだった。当たり前かもしれない。あの時パリス提督(当時は大佐だったが)は、優秀な息子が自慢で、パーティに連れ出しては多くの部下や学生に紹介して回っていたのだから。

「じゃ優秀なんだ。父はできる人間しか認めませんからねぇ」

その言葉に思わず顔が笑いそうになって背けてしまう。

「おねーさんも、優秀なんだね」

昔の少年もそう言った。無邪気な言葉が微笑ましく、また父親も満足そうであった。彼は息子が将来、艦隊に入ることを見越して、その頃上官となりうるであろう若い士官や学生を見つくろっていたのだ。今考えると、私は彼の思い通りに動いたということになる。…少し可笑しく、少し切ない。結果的に、私は父親から愛する息子を奪ってしまったのだ。遥かδ宇宙域に…。

「キャスリン?」

突然目の前に現れたチャコティに、あからさまにびっくりしてしまった。どうやらデスクビューに向かいながら物思いにふけり、しかも無意識にドアチャイムに返事までしたらしい。

「ごめんなさいチャコティ。ちょっと考え事をね…」

「深刻ですか?」

「いえ、白状するわ。思い出に浸っていたの」

「それは…聞かないでおきましょうか」

「そう?」

話しても構わないのに…。幼いころのトムの話を、チャコティはどんな顔して聞いてくれるかと、一瞬楽しみに思ったりもしたのに。

「で、どうしたの?」

ミーティングはさっき終わっているから、今日あることはあらかた話が付いているはずだ。それをわざわざここまでくるということは、上級士官にも内密にすべきようなことなんだろうか。

「今日で30日です」

「ああ、そのこと…。さっきトゥヴォックに言っておいたわ。もう拘束室から出ているころでしょ」

「もうですか?規則では午後3時になって…」

さっきもそのセリフは聞いた。今は顔が笑うのに素直に従う。

「トゥヴォックと同じこと言うのね。いいじゃない、56時間くらい」

すると彼も少し笑った。

「なに?」

「いえ、規則に従ってあいつを拘束室に入れたあなたが『いいじゃない』ですか」

「あんまり厳しすぎるとトムは本当に拗ねちゃうかもしれないわ」

一刻でも早く出してやりたい。そんな本心を、今度はわざと隠す。

「違いない」

「あなたも早く出してやれと言いに来たのかと思った」

「いえ、違いますよ」

「じゃ、なんでわざわざ?」

「ブリッジも平和ですし、なんならあと10日くらい入れといてもいいんじゃないかと思いまして」

落ち込んでいる顔でもしていたのだろうか、彼がこんな冗談を…?

「いいわよ。でももうすぐデヴォア帝国とやらと接触しなきゃいけないの。戦闘になったら主任パイロットが必要だわ」

「操舵部門はまだあいつに任せるつもりですか?」

「ええ。降格しても彼の腕は確かだから。あなた様子見にいったんでしょう?拘束室ではどんな感じだった?」

「文句ブーたれてましたよ。情けないって言ってやりました。覚悟の上での行動じゃなかったのかって」

「そしたら?」

「急にシュンとして、それでもなんだか不満げでしたが、幾分素直になったようでしたよ」

「そう」

様子は目に浮かぶ。最初はぶつかり合っていた2人だが、今ではある種の信頼関係が生まれている。

「父親に手紙を書いてるんだそうで」

「パリス提督に…」

「私は親父が生きてる間に、何かを伝えようと思ったことはなかったので、少し羨ましかったです」

「トムも、お父様とはあまりうまくいってなかったみたい。提督がおっしゃるには『反抗期がいつまでたっても終わらん』のだそうよ」

「親父ってそんなもんですよ。信念がある人ほど、息子に満足することなんてあまりないんだ」

「私もトムの気持は分からなくもないわ」

「本当ですか?お父さんとはうまくいってたんじゃ?」

「もちろん、父は大好きよ。問題は父じゃなくて、周りの士官たちだった」

「周り?」

「そう。『提督の娘』っていうだけで、いろいろ言われなくてもいいこと言われたものよ。特にアカデミーでの新学期や、艦隊に入ったばかりのころにはね」

「そうなんだ。贔屓してもらえるのかと思った」

「逆よ。みんなよりできて当たり前、いい成績を取ってもすぐに父の名前を出されたわ。努力したのは私なのに」

「でも、あなたは優秀な成績で卒業したじゃありませんか」

「トムだって、卒業したときは優秀だったのよ。あなた知らないの?」

「アカデミーの時の成績までは。あいつが言う『昔の自分』は話半分に聞いてましたし」

それも容易に想像できる。

「主席とまではいかなかったみたいだけど、卒業式でスピーチをしてるわ。私のよりずっと面白かった」

「あなたの?」

「ええ、まあね。そういうのも結局、私たちみたいなのに回ってくるのよ」

「それも聞いてみたいな。名誉なことじゃありませんか」

「名誉も結構だけど、私はあんまり好きじゃなかったわ。学生時代は、どちらかというと目立つのを避けたいタイプだったから」

「そんなことを、思い出してたんですか?」

「なんですって?」

聞かないと言ったはずの思い出話に触れられて、少し驚いた。

「あ、いや…」

「いいのよ。さっき思い出してたのはもっと昔の話…いえ、もっと最近の話になるのかしら」

顔中をはてなマークにしているチャコティの様子が可笑しかったが、キャスリンは笑いを堪えて思い出話をした。アカデミーにいた頃7歳のトムに会ったことがあること、成長した彼をニュージーランドで見た時に自分の年を思い知らされたこと…。

「トムの方は覚えてないと思うわ。あの時は沢山の学生や士官がいて、提督はもう手当たり次第に会わせていらしたから」

「自慢の息子か」

「そんなところよ。3人のお嬢さんの後に生まれた待望の男の子でね、しかも奥様にそっくりだったんですって。活発で頭も良くて、あれだけ好奇心旺盛だと、期待なさったでしょうね」

「見てみたかったな」

「可愛かったわよ。制服を着た大人たちに臆することなくまっすぐこっちを見上げてくる目がね」

「それが、あんなひねくれ者になってしまったと」

キャスリンは苦笑いをしながら思った。ひねくれ者…むしろ真っ直ぐ過ぎたがために、あんなことが起きてしまった。実はハリーよりもずっと一途で、自分を突き動かすものに抗えなかったトム…。それは正しいと、彼は信じていただろうに。

「トムは、私を恨んでいるかしら」

「恨む?」

「あの海ばかりの星を見ながら、トムとここでお茶を飲んだわ。『海底2万マイル』が好きだったって話してくれた。昔と同じ、無邪気な目をして。妹を思い出したの。あの子も父とぶつかることが多くて、父に反発して勉強もせず、絵を描いたり彫刻したり…」

「そうだったんですか…」

それが、どちらを指したのかは分からない。

「トムは妹と違って、父親の希望通りの道に進んだけど、提督はその姿をご覧になれないのね」

「マキにいたときのあいつは、手をつけられませんでしたよ。信念も情熱もない。何と言うか、人生どうでもいいって感じで。最初に任務を与えるとき言ったんです『せめて目的意識か忠誠心をもってくれ。そうしないと必ず失敗する』って。そしたら何て言ったと思います?」

キャスリンには思い当たる節があった。南半球で彼に仕事をやろうとした時、彼は金をもらえれば友人を捕まえることにも躊躇はないと言った。一回きりで放り出されても、それが人生だと言った。

「『それがあったらまだ艦隊にいた』?」

彼の驚いた顔が、少し意外だった。

「あ…聞いたんですか?」

「いえ、初めて聞く話よ」

「すごいな…。そのまんまだ」

まさかそのとおりだとは思わなくて、それは少し可笑しい。トムは昔からずっと変わってないのかもしれない。素直で、真っ直ぐすぎるけど、繊細な彼はそれで自分が傷つくことも知っている。だから、人の言葉を真に受けないように、自分を茶化している。

「でも、あいつは変わりましたからね」

「え?」

自分の思っていたこととは真逆のことを言われて、間抜けな声をあげてしまう。

「ヴォイジャーに来る以前の失敗は、さっきも言いましたけど目的意識や忠誠心に欠けていたからです。でも、今回は目的意識も忠誠心もあった」

「忠誠心?」

残念ながら、それはなかったと言わざるを得ない。

「あなたや艦隊に対してのそれは足りないと思いますよ、まだまだだ。でも命に対する忠誠心は、あったと思います。少しはマシになった」

チャコティはいい父親になるだろうな、彼の声を聞きながらふとそんなことを思った。あるいは教師に向いているだろうか。命に対する忠誠心…チャコティがこんな風にトムを評価するなんて。

「トゥヴォックより艦長」

継ぐ言葉がなくて、何となく訪れた静寂を、例の如くで破るのはトゥヴォックの得意技だ。

「どうしたの?」

「今、パリス少尉を拘束室から出しました。明日より、新たな訓練プログラムを彼に課したいと思いますが、許可していただけますか?」

「新しいプログラム?」

「この機会に規範意識をより強く持ってもらわなければなりません」

これをわざわざ通信で求めてくるところが、最近のトゥヴォックらしい。

「その前に、少尉に2日の休暇を与えます」

「艦長?」

「そのあとの訓練については、あなたに一任するわ。ただ勤務に影響しないように組んで。ジェインウェイ・アウト」

デスクに腰かけたチャコティを見上げると、時々見せるいたずらっ子のような笑いを浮かべていた。

「あと2日は、ブリッジも平和でいられるわけだ」

その言葉に笑いながら、キャスリンはコーヒーを淹れるために立ち上がった。

Fin.

【あとがき】トム、最初はかなり複雑であった(なんてったって主役の予定だった)にも関わらず、その後解決すべき設定がかなり放置されてしまったかわいそうなキャラ…そんな印象を持っています。なんて言いながら、結局言いたかったのは、トムは絶対「末っ子長男姉3人」タイプ(実際はどう言及されてたか知らないけど)だってことだったり、艦長がトムを選んだのはパイロットの腕だけじゃなくて『士官の子供』としての苦労を多少思いやってのことだったんじゃないかってことだったり、皆なんだかんだ言いながらトムのこと好きでしょ?だったり…。おまけに、副長って格言ちっくなこと言うわ~なんて(笑)。出てこないだけで、この話の主役は間違いなくトムです。「水の惑星…」補完エピは、あの降格シーンがあまりにも可哀そうだった(艦長がね)ので、いつか書きたいと思っていました。このエピで艦長を批判するところなんて分からない。主任パイロットでいられるのは不思議なくらいだと思う。トムが悪いって言ってるわけじゃないけど、覚悟の上だったはずだから、拘束室ではブーたれて欲しくなかったな。あとは、別に悪い人がいたわけじゃなくて、それぞれの思いの末だったわけだから。

(おまけ)最初の方は、パイロット版の会話シーンと合うはずです。そう言えば、艦長の思い出ネタが続きますな…。

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