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The First Noel

Reting G  

あらずじ:12月のある日、キャスリンは艦内に居るはずのないものを見る。

※スタートレック・ヴォイジャーと、それに登場するキャラクターに関する著作権はパラマウント社に属します。この作品はそれを侵害しようとするものではありません。ご感想など頂けます場合には、bon-voyage0306@nifmail.jpまでお願いします。転載をご希望の場合も同メールアドレスまでご相談下さい。

 真夜中。廊下の真ん中で、キャスリンは1人ため息をついた。ヴォイジャーがδ宇宙域に飛ばされて半年と少し。この果てしない旅の向こうに、クルーの幸せはあるのだろうか。このごろ、そんなことを思い悩むようになっていた。忙しい勤務の間は忘れられていても、こうして部屋に戻るときなど、ふっと心の奥から湧き上がってくる。つい何日か前、青空を見上げながらついに口にしてしまった不安。それがかき消された瞬間に、別の思いがはっきりと形をもって心に刻み込まれてしまった。クルーは帰りたいと切望している。あの時はそれが分かって嬉しかった。

今はまだいい。艦隊にいたら、1年や2年のディープスペースミッションもあり得なくはないから。帰りたいと思いながらも、クルーはまだ本当に長旅の苦しさを実感していないのではないだろうか。でも…。これが5年になり、10年になり、15年になったとき、クルーが思うのはきっとあの日のことだろう。なぜ、艦長はアレイを破壊したんですか?そう言って作戦室に乗り込んでくるクルーがいないか、今からそれにおびえなければならない。

手の中にあるパッドを見て、キャスリンはもう一度ため息をついた。不安をともにしてくれた、副長からの休暇願。この半年で、初めてだった。彼の父親の死を弔うための儀式を行いたい。何が起こるか分からないδ宇宙域にたった一人出てまで行おうとするこの宗教的感覚は理解できないが、彼の父親もまたこの世に居ないのだと再認識して、勤務に影響することも黙認することにした。

ふとパッドから顔を上げた。視界の端に、何か動くものが見えた気がした。緩やかにカーブした廊下を、少し速足になって曲がった。また。今度は確かにとらえた。真っ白な、軽い布地。誰かがマントのようなそれを羽織って歩いている。異常な速さだ。

キャスリンはいつもの行動をとらなかった。昼間こんなものをみたら、2秒もたたないうちに侵入者警報を流すだろう。しかし、こんな真夜中、誰かが部屋着かローブを着たままうろついていないとも限らない。

「誰なの?」

もはや小走りになっても、白い布の端しか、キャスリンには見えない。カーブが直線の廊下になっても、それはいつの間にかその向こう側の角まで行っている。クルーではないかと思ったキャスリンだったが、誰なのか確かめないと気が済まない。何度か声を掛けながら暫くイタチごっこをしながらデッキを降りて行き、追いつこうと本気で駆けだそうとした時、白いものはある部屋へ入っていった。

「ホロデッキ?」

キャスリンがそう呟いたとき、何も命じていないのに勝手にドアが開いた。その向こうには既に、満点の星が輝く草原があった。

 キャスリンは迷うことなく足を踏み入れた。星明かりの中でも、あの真っ白な布をまとった人物がいたなら、絶対に目立つはず。なぜ立ち止まらなかったのか、一言言ってやらないと。

 しかし、そこには見渡す限りの草原が広がっているだけで、誰の姿も見えなかった。おかしいわね…そう思ったが、もう夜も遅いし、だいたいなんで第6デッキまであんなもの降りてきたのかしら。草原の向こうから吹いてくる冷たい風まで感じで、キャスリンは踵を返し、ホロデッキを出ようとした。

「待ちなさい」

急に声が聞こえて、キャスリンは振り返り、そのまま目を丸くした。目に入ったのは真っ白の衣をまとった人物で、キャスリンを見降ろすように2メートルほど宙に浮いていた。まるで中世の宗教画から出てきたようなその人は、男性とも女性ともつかず、キャスリンと同じほどある長い金髪は、そこだけ人口重力が弱くなったかのように軽く漂っていた。

「恐れることはありません。私は伝えに来ました」

キャスリンはただ黙って対峙した。なぜか、話をさえぎる気にはなれなかった。

「信じる道を行きなさい。思い悩み、迷い、苦しむこともあるでしょう。しかし、あなたの信じるままに行けばよいのです。あなたはそのための力を、既に得ています」

その声は穏やかで、優しく、しかし力強くキャスリンの心に響いた。

「みな、あなたと思いを同じくしています。目指す道は同じです。時に孤独を感じることもあるでしょう。そんな時は、目の前にある言葉ではなく、その奥にある心に耳を傾けなさい」

キャスリンはその時になってやっと口を開いたが、何を言うこともできなかった。

「信じる道を行きなさい」

最初と同じ言葉を繰り返した瞬間、空中の人物は俄かに強烈な光に包まれた。あまりの明るさに、キャスリンは目を閉じで顔を背けた。それでも、瞼を透かしてすさまじい明るさが伝わってくる。思わず、腕で顔を覆った。

 どれくらいの時間、そうしていたか分からない。それほど長い時間ではなかったような気もするが、キャスリンはそっと顔を上げた。ゆっくりと目を開いてみると、そこは夜の草原ではなく、無機質な灰色が敷き詰められたただのホロデッキだった。

 少しボーとする頭を抱えながら、キャスリンは部屋へ戻った。今のは何だったのだろうか。上着を脱いでデスクの上に置くと、そこにあるデスクビューがメッセージの存在を告げていた。それも1つではない。合計、5通。少しぎょっとしながらも、幾分生気を取り戻した気分で、それらを開けた。

「そういうことだったのね」

10分後、キャスリンは笑顔でビューを閉じた。5通のメッセージは、上級士官からのクリスマスカードだった。トゥヴォックはシンプルに書面で、ニーリックスとケスは2人そろって映像を、ハリーやトムはいたってオーソドックスなカードを送ってきていた。チャコティのカードには、コード番号が付いていて、それを押すとレプリケーターからバラが一本現れた。

「おはよう、みんな」

上機嫌で声を掛けたキャスリンに、ブリッジクルーも笑顔で挨拶を返した。艦長席に座ると、珍しくキャスリンより早く来ているトムに向かって声を掛けた。

「トム、昨日のプログラムはなかなか素敵だったわよ」

呼ばれて振り返ったパイロットはしかし、キャスリンの言葉を聞いてきょとんとしていた。

「プログラム?」

「聖書のキリスト誕生をもとにしたんでしょう?でも、ホロデッキまでのあれはどうやったの?」

「艦長…何のお話ですか?」

「昨日の夜中、ホロデッキでよ。あれはあなたのでしょう?」

「昨日の夜は…艦長にカードを送りましたけど、それだけですよ」

「いいのよとぼけなくても。少しびっくりしたけど、楽しかったから」

少し困り顔で言葉を返さなくなってしまったトムに、キャスリンは彼がごまかそうとしているわけではないことを知った。

「あなたじゃないの?」

「違います」

「じゃあ、ハリー?」

少し斜めになって振り返ると、彼もまた首を振った。

「僕じゃありません」

「え…?」

念のため、チャコティやトゥヴォックの顔を見てみたが、もちろん2人に心当たりはなかった。

「何があったんですか?」

奇妙な状況に興味を覚えたトムが、好奇心を隠しきれない様子で聞いてきた。

「いえ…分からないわ。他のクルーかもしれないわね、忘れてちょうだい」

 二時間後。キャスリンは作戦室のデスクに肘をついて、ため息を漏らした。そこへ、入室を求めるチャイムが鳴ったので、とりあえず体勢を立て直す。

「入って」

扉の向こうに現れた副官は、それでもキャスリンの怪訝な表情に気付いたようだった。

「報告書を持ってきたんですが…。まだ昨夜の?」

「ええ、謎だらけよ。ちょっとこれ見て」

クルリと卓上のデスクビューを返すと、そこにあるセンサーデータに彼の視線が注がれた。

「昨夜、私がここを出てからホロデッキへ行って、寝室へ戻るまでのセンサーデータ。私は確かにこのルートを辿っているのに、私の前には誰もいなかったし、ホロデッキでもこの時間、何のプログラムも作動してない」

「でも…、見たんですよね?白い服の人物を」

「そうよ、見たことない人だった。てっきりトムのいたずらというか、プレゼントだと思っていたの。まるでキリスト誕生を天使に知らされた羊飼いのような…」

 結局、センサー記録からは何も分からず、キャスリンはその日の出来事をこれ以上化学的に説明できなかった。特に害があったわけでもなく、キャスリンとしても不快な思いをしたわけではないので、追求する気も失せていった。そのうち、次々にもっと奇々怪々な出来事がヴォイジャーを襲い、あの夜の出来事はやがてキャスリンの記憶から薄れていった。

 しかし、ふとした時に、キャスリンはあの夜の言葉を思い出していた。信じる道を行きなさい。それが正しいのかどうか迷う時は沢山あった。自分の直感、信念に従う。そのための力は、確かにキャスリンの周りにあった。振り返ればいつでも自分を見つめ返し、忌憚なく意見を交わす副官、身の危険を顧みず共に闘ってくれるクルー。みんなが、キャスリンと同じ道を、一緒に歩いてくれた。あの人物が何者であったか、果たして存在したのか、それはいつまでたっても分からなかったが、もうどうでもよかった。あの言葉は、本物であったのだから。

Fin.

 【あとがき】ぜ~ったいにクリスマスFicを上げるぞ!という無茶な気合いのもと、これまでで一番小さな小作を作り上げてしまいました。エピ補完の方が書きやすいのかもしれないんですが、残念ながらクリスマスネタが無いので。今回は一年目のクリスマス、第2シーズンの頭(DVD)あたりを想定しています。私の計算が正しければ(ウソ、とあるサイトで計算してくれます)2371年のクリスマスは37年組の話の直後、ケイゾンの男の子の話の直前です。チャコティのパパ、えらい年末に亡くなったんやね。ちなみに、ケスのエロジウムの話や、バークレイが現れてドクターが大混乱する話は、これより前なんですね。本編は時々日付が前後してて、ややこしい。

とにかく…、Merry Christmas

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