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彼女の言葉

Reting G  

あらずじ:ヴォイジャーのクルーが一つになるまでのお話。

※スタートレック・ヴォイジャーと、それに登場するキャラクターに関する著作権はパラマウント社に属します。この作品はそれを侵害しようとするものではありません。ご感想など頂けます場合には、bon-voyage0306@nifmail.jpまでお願いします。転載をご希望の場合も同メールアドレスまでご相談下さい。

 あなたには無理…昔、そう言われたことがあった。あれは、艦隊をやめるつもりだと、地球に住んでいた従姉に言った時だった。

「マキ?あなたが?」

「そうだ。家族を殺したカーデシアを、俺はどうしても許せない。艦隊にいたら、彼らとの和平条約を認めることになる」

「パパや…おじさん達が殺されたことは、私も悲しいわ。でも、あなたにマキは無理だと思う」

「なぜだ?」

「なぜって言われても…そうねぇ、何となくというか、しっくりこないというか」

チャコティがふっと笑いを洩らすと、従姉はなぜか少しムキになった。

「ちょっと、私の直感をバカにするの?」

「そうじゃないが…」

「あなたが艦隊アカデミーに行くって聞いたときは、なんにも引っかからなかったわ。むしろそれが自然な感じがしたの。おじさんがなぜ反対したのか分からなかったくらいよ」

「民族意識が強かったんだ。俺はそれを継がなきゃいけなかったのに…」

「あら、あなたが星を出て艦隊に入ったから、おじさんの血筋が残ったんじゃない。あのままあの星に居たら、あなたも死んでたわ」

言葉に詰まってしまった。確かにその通りなのだが、だからと言って喜ぶ気になどなれなかった。

「とにかく、あなたにマキは無理でしょうね。23年はいても、必ず艦隊に帰ってくるわ。そうじゃなかったら、刑務所がいいところ」

「ひどいな」

「本当よ。辞めるなんて、やめておきなさい。後悔するから」

 結局、彼女の忠告には従わず、そのあと艦隊を辞めてマキに入った。そして今、自分は再び艦隊の船に乗っていた。目の前に座っているのは、従姉ではなく、自分より年若い艦隊の大佐。

「ミスター・チャコティ。あなたの協力に感謝するわ。マキのメンバーが今おとなしくしててくれるのも、あなたが命令してくれたからだし」

「艦隊じゃないからな、それほど命令系統はしっかりしてない。あいつらがいつ反乱を起こしても不思議じゃないが、今は戦力でこっちが劣る。戦略担当もいない。それだけさ」

ジェインウェイ艦長は、ふんぞり返るでもなく、ただまっすぐにこちらに向かって座っていた。姿勢をわざと崩している自分の方が、よっぽどいきがっているだけのおろかものに見えた。

「あなたに来てもらったのは、他でもないわ。これからのことを話し合おうと思って」

「拘束室か?世話になるな」

「そう話を急かさないで。あなたたちをバッドランドで捕らえたらそうしたけど、いまのこの状況で、あなたたちを拘束室に閉じ込めておくつもりはないわ」

「どういうことだ?」

「ね、あなたは艦隊の少佐まで務めた人よ。もう一度艦隊の船に乗るつもりはない?」

「断る」

「即答していいの?」

「部下たちを裏切ることはしない」

「何もあなただけなんて言ってないわ。マキのメンバー全員を、ヴォイジャーのクルーとして受け入れると言っているの」

「なんだって?」

この驚くべき提案に、眉間にしわが寄るのを感じていた。この女は何を考えているのだろう。

「ヴォイジャーはこっちへ飛ばされるときに、多くのクルーを失ったの。副長、機関主任、医療主任、それに操舵主任も」

「人数合わせか」

「足りないのは確かよ。でも、不適任な人物の率いるグループじゃなかったら、こんなこと言わない。意地でも艦隊の人間だけで帰還を目指すわ」

この部屋に入って初めて、大佐が厳しい目を向けてきた。

「考えてみて。あなたは艦隊のルールもマキの気質も分かってる。二つのグループをまとめるためには、私だけじゃダメなの。あなたの協力が必要よ、みんなが生き抜くために」

その率直な物言いに、少し気負ってしまいそうになる。

「俺がそんなにご立派な人間だと思うか?艦隊を自分から辞めた人間だぞ」

「正直に言うわ。あなたに初めて会った時の印象は、データや先入観もあってあまり良くなかった。でも、あなたは管理者を穏やかに説得しようとした。それに、トリコバルト弾をアレイに打ち込むときに、聞こえたのよ『彼女が艦長だ』って。私の決定を、あなたは力づくで止めて反対することだってできたのに」

「ベラナを守るためだ。あまり激しく反対すれば、トゥヴォックが何をするか分からない」

いちいち反論しながら、不思議な感覚に包まれていた。艦隊の船…。ただ綺麗だから、最新鋭の船だからというわけではなく、何か居心地のいい感触。そこには僅かなノスタルジーが漂っていた。はじめてマキの船に乗ったときには、決してなかった感覚。

「彼は任務でスパイをしただけよ」

「分かっている」

「そう。この件は一度の話し合いじゃ決まりそうにないわね。とにかく、一度考えてみてくれるかしら。他のメンバーとも話し合う必要があるのなら、その時間も…」

なぜか、彼女が少し小さく見えた。よく見ると、顔には疲労の色が浮かんでいる。

「時間をもらえる方がありがたい。そういう提案をされるとは思っていなかった。さっきも言ったが、俺がリーダーとして今ここで決めたとしても、命令系統はちゃんとしていないから、何人が付いてくるか分からない」

「いいわ。マキのみんなが集まれるどこか広い部屋を準備しましょうか。会議室じゃ狭いでしょうし…」

「いや、会議室を貸してもらえるとありがたい。俺の独断と言うわけにはいかないが、全員にこんなことを言ったら大騒ぎになる。艦隊には恨みを持ってるやつさえいるからな」

彼女はため息をついた。面倒なことになったと思っているだろう。

 ベラナを筆頭に、ゴネそうなやつらを中心に指名して、会議室に呼び出してもらった。艦長には言わなかったが、マキの生活に疲れて、艦隊のような陽のあたる生活に戻りたいと思っている奴もいなくはない。むしろそっちで、こっちが空中分解しかねないのだ。会議室に呼び出した奴らは、こいつらさえ押さえておけば、そんなやつらと大騒ぎを起こさずに何とかなるだろうと思った面々だった。

 意外にも、自分が驚いたこの提案に、彼らは特に反対しなかった。ベラナなどは感情的になってどこか(或いはだれか)に一発くらわすかとも思っていたが、暫く続いた沈黙を、穏やかに破った。

「転送室に居たの、ここに呼び出されるまで。そのときこんなこと聞いてたら、今すぐあの艦長殴りに行ってたわね。でも、今はそうしようとは思わないわ」

「なぜだ?」

「彼女の言うとおりだもの。あなたがフォローしてくれれば、私でも艦隊の乗組員に戻れる気がする。アカデミーを卒業してない私みたいなのは、階級をもらえないだろうから、艦隊士官の下で働くことになるのよね。それはちょっと腹立たしいけど、なんだか…α宇宙域に帰るにはそれしかない気がするの。マキと艦隊が一緒にやってくのは無理かもしれないけど、ここはカーデシアとの協定も関係ない場所だし、レジスタンスも意味ないし…」

珍しく気の抜けたこの意見に、だれも何も言わなかった。

「じゃあ、ジェインウェイ艦長の提案を受け入れるのか?」

「聞いてもいいか?」

モイストウッドが口を開いた。やつもまた、家族をカーデシアに虐殺された男で、自分との共通点を多く持っていた。艦隊の少尉だったこともその一つだ。

「なんだ?」

「逆に、提案を受け入れなかったらどうなる?」

「分からんな。拘束室か、シャトルででも放りだされるか。しかし、あの艦長はそれには触れなかった。俺たちにこの提案を受け入れさせる自信があるのかもしれん」

ここは既に艦隊士官の会議ではないのかと思えるほど、穏やかに、スムーズに話は進んだ。

 もういきがる必要はなかった。マキでも少しは強がっていたから、こんな風に力を抜くのは久しぶりだった。作戦室で、艦長は単刀直入に答えを求めてきた。

「さすがに、こんなありがたい提案は断れない…ですね」

「そう、よかった」

心から安心したように言ったその一言が、なんだか可笑しかった。我々もこんなところに置き去りにされたらかなり厳しいが、実はヴォイジャーの方が、人員を必要としているのではないだろうか。

「ただし、条件が」

「条件ですって?」

「別に降伏するわけじゃないが、艦隊の人間になるということは、これまでの生き方を変えなきゃいけないってことでしょう」

「叶えられるかどうかは保証できないけど…言ってみて」

「能力のある奴には階級を与えてやってほしいんです。仕事できるのならちゃんと責任のある仕事も任せてほしい」

彼女は一瞬言葉に詰まったようだった。やはり、その気はないのか。

「もし誰も士官にできないと言うなら…」

「違うわ。もう…あなたって意外とせっかちなのね。それはデータベースにも艦隊の記録にもなかったわ。そうじゃなくて、どうすれば分かりやすく階級を与えられるかどうか考えていたの」

「じゃあ…」

「ええ。あなたの言うことは当然だわ。私は大佐にすぎないから、正式な階級は与えられないけど、この船の中では有効よ。それに、艦長から臨時に与えられた階級でも、地球に帰ればそのまま艦隊から承認されるのが慣例。知ってるでしょ?」

「まぁ…」

艦長は窓の外に広がる星空を少し見て、それからこっちの顔を見て笑った。

「ありきたりだけど、試験をしましょうか。あなたアカデミーで教鞭を執ってたこともあるんでしょ?トゥヴォックと私と3人で、試験をして階級を決めましょう。技術・知識・それからそうね…指導力くらいは。本当は規範意識っていうのも入れたいけど。犯罪歴も無視はできないけど、私はあなたの評価も重視したいわ。大変だけど、あなたから見た彼らの評価を、11人出してくれる?」

「分かりました」

「各部署の責任者や主任に関しては、艦隊のクルーも含めて再決定するつもりだから、もっと後の話。ただし、もう決まっている人もいるから」

「だれですか?」

「あなた」

すいと出された指に、思わず視線がいく。

「は?」

「階級は少佐、私の副長になってもらうわ。これは他の人と相談できる地位じゃないから、私が独断で決める権利がある。そうでしょ?」

「しかし…」

「あら、だめなの?」

「副長はてっきりトゥヴォックかと」

「確かに彼は長年の友人で、優れた士官よ。でも戦略士官も保安主任もあるのに、全部かけもちじゃあさすがのバルカン人も倒れちゃうわ」

自分の言葉にふわりと笑う彼女は、前回の話し合いよりもいい顔色をしていた。

「理由は他にもあるわよ。あなたが艦隊に戻る場合、元の階級に戻れるから、当然少佐でしょ。この船に佐官はあなたと私だけになるんだから、あなたが副長で当然でしょう」

「少佐や中佐は死んだんですか?全員?」

「元々、この船に中佐はいないの。副長と医療主任が少佐だったけど、2人とも死んだわ」

あっさり2人の仲間の死を口にする彼女にとって、その佐官たちは親友と言うわけではなかったようだ。

「政治的な判断が無いわけでもないわ。マキの…元マキと、言わせてもらうわね。あなたの部下だったメンバーにも人事を納得してほしい。帰還を目指す以上、一つにまとまらなきゃ」

「ええ、まぁ…」

「あなたが納得してくれないと始まらないわ。何が気になっているのか、言って」

「いいんですか?」

「あなたのことよ」

「私はお飾りの副長になるつもりはない。あなたが間違っていると思ったら、遠慮なく意見を言わせてもらう」

「それは、構わないわ。ただ、時と場合を考えてね」

「心得ています」

「そう、私も役立たずな副長は必要ありません。トゥヴォックだって、これまで忌憚なく私に意見したわ」

その時彼女は、我慢できないという風で笑った。

「ごめんなさい。こんな時なのに、ちょっと思い出しちゃって」

こっちはもうはてなマークで頭が埋まってしまいそうだ。

「トゥヴォックと初めて会ったのは艦隊の会議室で、だったんだけど、いきなり私の作戦ミスを指摘してきたの。大勢の上官や提督の前でね。恥かかされて、こんな人二度とお目にかかりたくないって思ったものよ」

とても、人間的だ。そう思った。屈託のない笑顔。そう年若くはないはずなのだが、そこには幼ささえのぞかせている。パリスをかばって自分の前に立ちはだかった、あの時とは大違いだ。

「そうだわ、あなたにも1つ聞きたいと思っていたの」

「なんでしょう?」

「トム・パリスよ」

あいつか…。どうしてか、やつの名前を聞くと軽い頭痛さえ覚えてしまう。

「私からも聞きたい。なぜあいつをこの船にのせたんですか?」

そんなことは分かりきっているが、なにより気に入らなかったのは、やつが艦隊の制服を着ていたことだ。

「戦略的に彼の情報が必要だったっていうのと、個人的にもパリス提督にはお世話になっていたから」

簡潔で明瞭な答え。それがますます気に障った。

「本当は、彼に階級を与える気はなかったの。とりあえず刑務所から出してあげたかっただけよ。それもトム自身じゃなく…提督のため。あなたたちを捕えて帰ってくれば、そのまんまサンフランシスコの街中に放り出す気だった。でも、彼の腕は確かよ。艦隊を除隊になった理由もその後の行動も問題ありだけど、トム・パリスを操舵主任にしたいと思ってる」

操舵主任…あいつがか。頭の中でわざと反芻してみたが、不思議とそれほどの不快さはなかった。

「彼は、あなたが自分を一方的に嫌ってるんだって言ってたわ」

「確かに、気に入ってはいない」

「ブリッジ勤務なんだから、仲間としてやってもらわないと困るわ」

ほんの何秒かの沈黙に、彼女が込めた思いのようなものが感じられた。

「古い言い方をするなら…俺の命はあいつのものだ」

一瞬キョトンとしたような表情になった。そこにもまた、人間味を感じた。

「…それは、どういう意味なの?命を助けてもらったことでも?」

「あいつに聞いてください」

「そうするわ」

苦笑いを噛み殺したような…見ていると面白い。部下となる人間と話している時に、こんな百面相をする艦長は初めて見た。

「さぁ、とりあえず新しいクルーは全員ホロデッキに来てくれるかしら」

「ホロデッキ?」

「スキャンするの。制服作らなきゃ」

「ああ…」

なんだか遠足にでも行くみたいな言い方だな。

「我々が提案を受け入れると、決まっていたような言い方ですね」

つい、嫌味な言い方をしてしまった。作戦室を出て行こうとしていた彼女は、立ち止まって顔だけ振り返ると、ふっと笑った。

「マキだって別に怪物じゃないでしょ。それに、あなたなら受け入れてくれると思ったの」

「理由を、聞いても?」

「真面目な人だから」

「真面目?」

「あなたは艦隊を辞めてからマキに入った。艦隊の身分のままマキのスパイのようなことをしていた大佐だっているわ。でも、あなたは違った。あなたにはそんな卑怯なこと無理だったのよ。信じてもいいと思ったの…もちろん、このδ宇宙域でどうやって生きて、どうやって地球に帰るかを考えた時だけど」

ふと、あの日の従姉の言葉を思い出した。あなたには無理…そういうことだったのか。

 それにしても、この艦長の言葉には、少し心が動いた。信じてもいい…暫くぶりに聞いた気がする。マキでは、誰がいつ裏切るか分からない。本心から信じた人間は、いったい何人いただろう。

 艦隊とマキ…一番の違いはそこだったかもしれない。信じられる。俺もこの人の言葉を信じてみよう、この人を信じてみよう。

Fin.

【あとがき】艦長の誕生日記念エピです。とは言うものの、以前書いていたものを仕上げたにすぎませんが…。

 御覧の通り、パイロット版のもう最後の最後、艦長のスピーチ直前のシーンの隙間…長いな…を書いてみました。副長は基本真面目人間なので、艦隊をきっちり辞めてからマキに入ったと思うんですよね。DS9には、艦隊士官のままマキにも通じて、むしろそっちがその人的には本気だったってひと、居ましたよね。戦略的にはあっちの方が便利だろうと思うんですが、そうしなかった副長は…やっぱり真面目。

 副長がなぜマキの信念を貫かずに艦隊に戻ったかっていうのは、いろんな解釈ができると思うんですが、今回はあんまりそこを追求しませんでした。

 もうひとつ言うなら、艦長ってシーズン1の初めはもっと偉そうで、シーズン2あたりでだんだん丸く(失礼)なってきた気がするんですが、まぁ今回は魅力的な艦長でお願いします。誕生日ですからね。

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